vol.031 テトリス

blog
正月休みにiPhoneアプリのテトリスをダウンロードしてみました。
子供の頃、ゲームボーイの登場と共に空前のヒットとなっただけあり懐かしさに時間を忘れてブロック崩し。

さて、流行し始めた当初は他のソフトを持っていなかったのでとりつかれたようにテトリスやってました。
瞼の裏側に焼き付くほど、ときには夢の中でもテトリスやってました。
テトリスとテトリスの合間にテトリスやってました。

さてさて、7種類あるブロックの形で最も歓迎されないのがコレではないでしょうか?
テトリス1

せっかくフラットにした面にしぶしぶ積み、その後の対処に悩まされる。
またそれ故にハイスコアを逃し、その絶望から立ち直れず睡眠や食事も十分に取れなくなった結果、心療内科に通院したという人も多かったはず。
(どんだけ深刻!)

しかし、いちばん辛かったのは我々プレイヤーではなく
バッシングを受け続けてきた彼自身なのではないでしょうか?

そこで僕は彼への単独取材を行うべく
目黒川沿いにある彼の住むマンションへと足を運びました。

 

テトリス1

 

「どもいらっしゃい!」とドアを開けてくれた彼の笑顔が緊張でこわばった僕の表情をほぐしてくれました。
彼の後ろから、ちょっと恥ずかしそうに僕を見る5歳と6歳の娘さんが一緒にお出迎え。
今ではすっかり優しいパパといった感じで、当時はスリムで尖っていたカラダも丸みを帯び、ちょっと白髪の混ざった顎ヒゲから改めて月日の流れを感じました。

応接間に通された僕は棚に飾られた往年の写真に目がいきました。
現役当時の輝かしいステージでの様子の他には出番前に研磨職人によって鏡面仕上げされているところや、7種類のブロックが楽しそうに七里ヶ浜で海水浴をしているところなどレアなオフショットもあり感動です。

さてさて、彼の奥さんお手製のレアチーズケーキとバルコニーで育てたという採れたてのハーブティを頂きながら彼の話が始まりました。

「当時いちばん人気があったのが、やっぱりI字型だったな~。
4段いっきに消せるのって、なんだかんだ言ってアイツだけだったし。
世代や男女関係なく人気がありましたよ。
しかも長身で細身だから女性ファンは独り占めだったかな(笑)」

僕は思い切ってバッシングについての核心部分に迫ってみました。
彼は少し黙った後、当時の情景を見ているかのような遠い目をしながら話し始めました。

「当時はホント辛かったですよ。
I字型はもちろん、3段消せるL字型や使い勝手のいいT字型も人気があった中で、俺はまるでプロレスのヒール(悪役)みたいに出てくるだけで会場がブーイングに包まれることだってあったし。やりきれなくて酒びたりになった時期もありましたね。

でも、そんなとき元巨人軍・川相選手の送りバント世界記録のニュースを見たんですよ。
当時の巨人軍っていったら他球団からこぞって4番バッターを集めてきたりと長距離ヒッターがスタメンに名を連ねるド派手な野球で有名だった頃でしょ?
その中で、自らを犠牲にするバントでも、地道に積み上げることで世界に名を残す事が出来るんだと思ったら勇気が出てきたんです。
俺はI字型やL字型みたいにデカイ活躍はできないけど自分に出来ることをコツコツと積み上げていこうって。
ま、実際に積み上げるとゲームオーバーになっちゃいますけどね(笑)」

彼の顔に笑顔が戻りました。

「ブームが去ってから別の仕事に就くことになった時もその時の気持ちを持ち続けていたおかげで、後ろ向きになることもなく新たなステージでまた一つ一つ積み重ねていこうって思えたんです。今こうして家族に囲まれた幸せな生活があるのも、そのおかげですね。
だから、僕が人生を通して学んだこのことは、子供たちにも受け継いで欲しいなって思っています。
大きな脚光を浴びる人だけが輝いているわけじゃない、今いる場所で、自分が出来ることを見つけてそれを精一杯頑張ること、継続すること、自分以外の誰かのためにそれを出来ることの大切さを。」

最後に、もう一度テトリスのメンバーとして活動したいかを訪ねてみました。

「やってみたい気持ちはあるけどさすがに今の体型じゃ無理かな(笑)
レベル9とかのスピードで落ちながら回転するのしんどそうだし。
それに、先日上の娘に言われたんですよ。」

“パパのお腹はテトリスと言うより、ぷよぷよだね”って。

 

Ⓒイラストレーター トツカケイスケ