vol.025 襟足

襟足
早いもので3月に入り少しずつ春の足音が聞こえてきましたね。
みなさん、春一番にさらわれた洗濯物の回収はお済みですか?

さて、暖かい日が増えたとはいえ、まだまだ余寒厳しいこの季節。
首元の寒さ対策には、なんといっても襟足の髪を伸ばすのがイチバン!
でも、どうせ伸ばすなら床に着くくらい伸ばしてみたいものですよね。
そして、歩くときに引きずらないようウェディングドレスの裾みたいに小さな男の子と女の子に持ってもらおう。
ついつい、そんな夢を抱いてしまいます。

そこまで伸ばさないにしても、せめて太もも辺りまで伸ばし燕尾服のようにしてちょっとしたパーティーへ向かってはいかがですか?

 

ー とあるパーティ会場 ー
慣れないスワローテールヘアーのセットに手こずってしまった僕は開始時間を少し遅れて会場へ到着。

会場には、僕と同じく襟足で燕尾服を模したスワローテーラーたちで溢れかえっている。
さすがは今年注目度ナンバーワンになるであろうヘアースタイル。

女性たちも煌びやかなドレスに身を纏い華やかなパーティーに彩りを加えている。
中でも、僕の右斜めのテーブルで談笑している美しい女性に目を奪われた。

まるで白魚のように透き通る肌、白魚のような瞳、白魚のような唇、白魚のような背ビレ…
(それ、もう白魚ですよ)

見惚れてしまうのは容姿だけではない。
しとやかな仕草と喋り方、上品な笑顔、美しい所作でテーブルに並べられた料理を一つ一つ大皿から取り、タッパーに詰めていた。
(途中まで良かったのにっ!)

僕は勇気をふりしぼって彼女をダンスに誘おうと思った。
しかし、いざ声をかけようと思うと緊張でなかなかその一歩が踏み出せない。
僕は緊張をほぐすため、手のひらに「人」という字を3回書いて飲み込む。
しかし、3つ目が大きすぎて喉に詰まってしまった僕はひどく咽せてしまった。

そんな僕に「大丈夫ですか?よかったらどうぞ」とグラスに入った水を差し出してくれたのが、なんとあの彼女だった。
僕は咽せながら「すまないねぇ…」と礼を言うと彼女はにこやかな表情で『それは言わない約束でしょ』と病気がちな父親とそれに付き添う娘のベタな親子劇が始まった。
僕はすっかり緊張がほぐれ、気がつくと何時間も彼女と会話を続けていた。

しかし、パーティーも佳境に入ったころに彼女が急にそわそわし出した。
どうしたんだろう?
ペットに晩ご飯をあげ忘れたのを思い出したのだろうか?
ドラマの録画予約が野球延長で最後まで撮れているか心配になったのだろうか?

僕の予想はことごとく外れた。

なんと、彼女は午前0時を過ぎると魔法がとけ、元の姿に戻ってしまうのだ。
しかし、そんな心配をよそに、0時を告げる鐘が鳴り始めると彼女の姿はみるみるうちに変わっていった。

胸元に付けたコサージュはカブの千枚漬けに、首元の大きなパールのネックレスは、みたらし団子に、髪を飾っていたティアラは八つ橋へと変わった。
(京都の人ですかね?)

さらに右手に付けたピンキーリングは清水寺へと変わった。
(規模がっ!)

 

襟足1

彼女は慌てて椅子に置いたクラッチバッグを抱えると小走りで会場の外に出て行った。
見事なクラウチングスタートだった。
(慌ててるわりにっ!)

僕は彼女を追った。
しかし、ケープでガチガチに固めた襟足のスワローテールがバランスを崩し上手く走れない。
結局僕は彼女を見失ってしまった。

落胆のあまり下を向きながら会場に戻ろうとした僕の目にキラリと光るガラスの靴が映った。
それはまぎれもなく彼女が履いていた靴だった。
慌てて走っている途中に脱げてしまったのか…。

僕はそれを手にとると、中になにやら文字が刻まれているのに気づいた。

「size 28.0」

細身なわりに、わりと足デカかったんだな…。

さてさて、そんなスワローテールパーティーに参加を希望の方は下記アドレスまでお申し込み下さい。

sonna_party_nai@doconimo.ne.jp
(ドコモかと思いきや!)

 

Ⓒイラストレーター トツカケイスケ