vol.006 花粉症

花粉症

高校生で花粉症デビューしてからキャリア十数年、
すっかり大ベテランの域です。

さて毎日のように留まることを知らないクシャミは
ハクション大魔王がいたら、魔法の壷から出たり入ったり大忙しです。
たまにはアクビちゃんも出してあげたいとか思ったり思わなかったり。
欧米人が隣にいたら、その都度「God bless you !」を
連呼してくれるのかなとか思ったり思わなかったり。

花粉症1

とはいえ、クシャミが出るのは良しとして、目が痒くなるのもこれまた良しとして
上あごの奥というか喉の奥の方が痒くなるのはなんとも堪え難いであります。
最近は耳にまでその痒みが広がり、困ってしまってワンワンワワンです。
ワンワンワワンなのです。

きっと鼻の奥では沢山の花粉たちが酒池肉林を繰り広げているのことでしょう。
もうホント、自分の体を2mmくらいに小さく出来るなら
鼻の中に入って彼らを説得してお引き取り願いたいほどです。
(自分の鼻に自分が…?? 鼻も小さくなりますけど…???)

ってことで行ってきます!

 
さて、鼻の奥では「花博」ならぬ「鼻博」に訪れた沢山の花粉たちで大混雑。
入場規制をしようとマクロファージくんたち「チーム免疫細胞」も大忙し。
花粉たちは記念写真を撮ったり、キャラクターグッズや特製記念ストラップを買ったり、
みんなでお弁当を食べていたりと、僕の辛さとは裏腹に沢山の笑顔で埋め尽くされています。
そんな中、一人うかない顔をした女の子がいます。
彼女の名前は「カトリーヌ」。
どうやら悩みを抱えているようです。

僕は気になって彼女のところへ行き
『どうしたんだYO! 僕でよければ話を聞くYO! 』と
尻文字で伝えました。
(そんな人にはとても相談は…)

「わたし…」
小さな水晶玉のような一粒の涙がキラリとこぼれ落ちました。

「わたし、実は花粉症なんです…
 でも花粉なのに花粉症だなんて皆に知られたら…
 友達からは仲間はずれにされるんじゃないかとか
 大好きな彼に嫌われるんじゃないかとか考えると
 不安で不安で、食事も1日に3食しか喉を通らないんです…」

『きっちり採れてる!!』
僕は心の中でつぶやきました。

するとその話を聞いていた友達数人が彼女のところにやってきました。

『カトリーヌがそんなに悩んでいるのに気づいてあげられなくてごめん…。
 これからは悩みとか心配事あったら何でも話してね。
 カトリーヌが辛い顔してたらうちらだって辛いしさ。
 それに、そんなことくらいで離れて行くワケ無いじゃん!
 だってうちら、トモダチだもん!』

寄り添った友達のひとりがポケットからハンカチをだして
笑顔でカトリーヌに差し出しました。
そのハンカチはいかにも高級そうな100%シルク素材で、
タグには「HERMES-PARIS」と書いてあったため
カトリーヌはちょっとだけ躊躇しましたが
遠慮なく涙を拭かせてもらいました。
鼻もかませてもらいました。
昼食のときに服に付いた油汚れも拭かせてもらいました。
(そこはぜひ遠慮して!)

花粉症2

「ありがと…」

小さな水晶玉のような涙が今度は溢れるようにカトリーヌの頬を
キラキラと伝って次々と流れ落ちました。
でも、さっき流した悲しい涙と違い、少し穏やかで柔らかい輝きに見えました。
それを見ていた他の友達もこぞって友情の涙を流しながらカトリーヌを励ましていました。
優しい友達に肩を抱かれて喜びと安心で涙が止まらないカトリーヌを見ていると
僕は花粉症の辛さも忘れて温かい気持ちが込み上げてきました。

 
「友達って、いいもんだな…」

僕は尻文字で綴りました。
(感動台無し…)

さてさて、感動したのもつかの間、
カトリーヌたちから溢れ出た大量の涙は結果的に僕の鼻水となるわけで
只今ナイアガラの滝のように流れだしております。